感想『Wシリーズ』全編−−人とウォーカロン、人工知能。生命の境界とは

 

 

Wシリーズ 全10冊合本版【電子書籍】[ 森博嗣 ]

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彼女は一人で歩くのか? Does She Walk Alone? (講談社タイガ) [ 森 博嗣 ]

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S&Mシリーズ『すべてがFになる』で名を馳せたミステリィ作家・森博嗣の『Wシリーズ』

講談社・タイガ文庫の創刊に合わせて開始されたWシリーズは、2015年に第1作『彼女は一人で歩くのか?』から始まり、2018年に第10作『人間のように泣いたのか?』で終わりを迎えた。

3年で10作品という安定したスパンで刊行されていたWシリーズ。

Wシリーズ全編を通して、それを読んだ感想を述べていこうと思う。

 

いやもう、本当に面白いっすよ……。

 

あらすじ

 

赤い魔法を知っている?
人工生命体と人間。両者の違いとは何か? Wシリーズ、始動!

ウォーカロン(walk-alone)。「単独歩行者」と呼ばれる、人工細胞で作られた生命体。人間との差はほとんどなく、容易に違いは識別できない。
研究者のハギリは、何者かに命を狙われた。心当たりはなかった。彼を保護しに来たウグイによると、ウォーカロンと人間を識別するためのハギリの研究成果が襲撃理由ではないかとのことだが。
人間性とは命とは何か問いかける、知性が予見する未来の物語。

『Wシリーズ 彼女は一人で歩くのか?』あらすじ より引用

 

このあらすじから、すでに森博嗣作品を読んだ(観た)人でぴんとくる単語がいくつかあるでしょう。

 

 

科学が発展する一方で、生殖が止まり寿命が伸び続ける世界

 

人工細胞の移植によって人類の寿命が飛躍的に伸びた世界。科学は発展し続ける一方で、ほとんどの人類が子どもを産むことができなくなる事態に陥っていた。

人間とウォーカロン、人工知能が社会の在り方を模索している。

新たな世代が生まれない一方で寿命は伸び続けていくという種としての曖昧さ、時代の転換点であることで生じる変化。

それらの特有な問題が研究者を主人公に据えて語られる。

主人公・ハギリは、人間と識別が難しいウォーカロンを脳波によって識別する研究をしており、その研究に不都合がある勢力に命を狙われる。

政府機関である情報局に身を置くことになったハギリは、護衛のウグイとともに様々な問題を解決すべく西へ東へ飛び回る。

その先で見ることになる、高度に発達した末に起こる事象の数々。

技術が発展し尽くした世界ではなく、発展して間もない途上の世界を舞台として物語は進んでいく。

そして、やはり世界の中心には「真賀田四季」がいる。

 

静かに胎動する世界で繰り広げられる緻密で最新の設定

 

森博嗣作品で馴染みがある『ウォーカロン』という人工生命体が登場する。ウォーカロンは容貌や言動で人と見分けることが難しい。ハギリは、人とウォーカロンを見分けるための研究をしているせいで命を狙われることになるが、物語はそれに留まらない。

未だに子どもが生まれるナクチュでのウォーカロンの暴走から始まり、電子生命体「トランスファ」同士の抗争、北極の海底で眠る人工知能「オーロラ」との知能戦。

時代の転換点で繰り広げられる新たな問題。それにハギリとウグイは巻き込まれてしまう。

これらの設定の数々がまず面白い。

 

人間を凌駕する演算能力を持つ人工知性たち

 

Wシリーズでは人間が作り出した人工知性が物語に大きく関わってくる。

ロボットのAIだけではなく、専門分野の研究員であったり、さらに政治にまで人工知性が関係している。物語の舞台となる年代は、世界を席巻しているのが人間だけではなく、ウォーカロン、人工知能、トランスファなどといった人工知性になりつつある時代ということだ。

高度な人工知性は世界各国(もちろん舞台となる日本も)保有している。その過程で国家運営に関わるスーパー・コンピュータ同士の情報交換を認めるか否かの議論がなされる。

この世界のスーパー・コンピュータはすでに人間が監視できる範囲から逸脱している上に人間に対して偽装を働くことが容易にで切る水準に達している。それゆえに人間は「信頼するか否か」といった前時代的な、極めて不合理な選択を取らざるを得ない。

このような議論が各巻それぞれテーマ違いでなされる。

『百年シリーズ』との関わりが深い

 

Wシリーズにおいても真賀田四季の影があるが、主に『百年シリーズ』が関わってくるエピソードがいくつもあります。

時にはその巻の結末が『百年シリーズ』の中心となる出来事や登場人物関連であるため、けっこう詳しく書くことに驚いた。

相変わらず謎を残す森博嗣作品であるが、『百年シリーズ』を読んだことがある人はぜひ手に取ってみるといいと思う。

 

終わりに−−物語の到達点は?

 

Wシリーズとは、いわゆるどこを目指しているのか。

それは人類と人工知性が行き着く先であると読み取れる。

SFでよくある人間を脅かすAIとの物語ではなく、人類と人工知性の共存、あるいは人類から人工知性への緩やかな世代交代を描いた作品だ。

ぜひ、手に取ってみてはいかがだろうか。

Wシリーズ 全10冊合本版【電子書籍】[ 森博嗣 ]

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彼女は一人で歩くのか? Does She Walk Alone? (講談社タイガ) [ 森 博嗣 ]

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巴瀬 春哉(ともせ しゅんや) 文芸とライトノベルが好き。 宮城県生まれ東京在住。 本には詳しくないが、本が好き。おもに文芸とライトノベルのことをブログに書いている。 ご連絡は「お問い合わせ」からお願いします。